トラ吉台風の日にスタッフさんが出勤する予定なら、オーナーが「危ないから休んでください」と決めた方が安心ではないでしょうか?
本人に判断してもらうと、逆に「出勤した方がいいのかな」と迷わせませんか?



そこは私も迷います。
だからこそ、ただ「自己判断でお願いします」と丸投げするのではなく、会社として安全を優先する考え方と、判断できるルールの両方を用意する必要があると思っています。



「自由に決めてください」だけでも、「必ず来てください」だけでもないんですね。
今回は、台風の日の連絡を通して、ルールと本人の判断について考えた一日です。
2026年8月13日、私は連休をいただいて栃木にいました。前日までに宇都宮へ移動し、妻の実家で家族とゆっくり過ごしていた延長線上の一日です。この日、ニュースを見ていて気になったのが、千葉の天候でした。
ルコールは千葉にあります。翌日以降、スタッフさんたちには出勤の予定があり、荒れた天候のニュースを見るほど、スタッフさんたちの安全と出勤のことが頭に浮かんできました。まずは大丈夫かどうか確認したい、と思いました。
ただ、ここで少し立ち止まりました。私は経営者です。何気ない「大丈夫ですか?」の一言でも、受け取るスタッフさん側からすると、「できれば出勤してほしい」というメッセージに感じられる可能性もあるからです。
経営者からの「心配しています」という連絡でも、受け取る側には「出勤してください」という圧になる可能性があります。だから私は、気遣いだけでなく、安全を優先できるルールと、本人が判断できる余白まで一緒に作る必要があると感じました。
連休中、千葉の天候が気になった
まずはこの日の状況を、少しだけ整理させてください。
私は栃木、スタッフさんたちは千葉
私自身はこの日、栃木の妻の実家で家族と一緒に過ごしていました。連休中で、店舗にはいない状態です。一方、ルコールがある千葉では、ニュースを見ていると雨や風の情報が繰り返し流れていて、明らかに荒れ気味の様子でした。
スタッフさんたちは、翌日以降シフトに入っています。距離が離れている分、余計に「あちらは今どうなっているのだろう」と気になり始めました。
休んでいても、スタッフさんの安全は気になる
経営者として現場にいないと、逆に想像力だけが働くところがあります。無事に出勤できるか、交通機関はどうなっているか、帰りは大丈夫か、お客様への対応はどうするか。頭の中でいくつもの「もし」が浮かびました。
ただ、これは「休みなのに仕事のことを考えて偉い」という話ではありません。むしろ、休みなのに頭が離れないことにも問題があると感じているくらいです。それでもこの日は、スタッフさんの安全という点だけは、放っておけないと思いました。
「大丈夫ですか?」が、出勤の圧になるかもしれない
連絡しようと決めたところで、次に手が止まったのは言葉の選び方でした。
経営者とスタッフさんでは、同じ言葉の重さが違う
自分としては純粋に「無事かどうか」を確認したいだけでも、経営者から「明日、大丈夫ですか?」とだけ届けば、受け取る側には「出勤できるかを確認されている」と映ってしまう可能性があります。「できれば出勤してほしいという意味なのかな」と読まれるかもしれません。
実際にスタッフさんがそう感じたと決めつけるつもりはありません。ただ、そう受け取られる可能性まで想像しておくのは、経営者の側の責任だと思いました。
気遣うなら、逃げ道まで伝える
そこで意識したのは、確認と一緒に「無理をしなくてよい選択肢」まで一言添えることです。具体的には、こんな内容を意識しました。
- 連休をいただいていることへの感謝
- 今は栃木にいて、千葉の天候をニュースで見ていること
- 出勤や移動に無理がありそうなら、無理をしないでほしいこと
- 必要であれば、お客様対応も含めてこちらで調整すること
- 台風・緊急時の既存ルールに沿って判断してよいこと
気遣いは「心配しています」と言うだけではなく、相手が無理をしなくてよい選択肢まで示して初めて伝わることもあると思いました。
お客様の予定もある。だから安全だけでは決められない
スタッフさんの安全が最優先である一方、お店にはお客様の予定もあります。ここも同時に考える必要がありました。
翌日のお客様へ確認した
翌日、私自身が担当している予約が入っているお客様がいました。私は事前にお客様へ連絡し、翌日の予定について確認しました。その時点では、お客様は翌日に髪を切ってほしいという希望でした。
お客様の予定を勝手にキャンセルするのではなく、まずご本人の希望を伺うところから始めたい、というのが私の考えでした。
スタッフさんだけ、お客様だけ、どちらか一方では決めない
店舗運営では、スタッフさんの安全、お客様の希望、お店としての責任を同時に見る必要があります。どれか一つだけを絶対視すると、判断がぶれてしまう気がしました。
お客様が「切ってほしい」と希望されているからといって、スタッフさんへ無理な出勤を求めることはしたくありません。逆に、天候だけを理由に、確認もせずお客様の予約を一律キャンセルする、というのも違う気がしました。



お客様が「明日やってほしい」と希望しているなら、お店としては出勤してもらうしかないのではないでしょうか?



私は、そこを一律には考えたくありません。
お客様の希望は大切ですが、悪天候の中で安全を無視してまで出勤することを前提にはしたくありません。
お客様への責任と、働く人の安全を両方見ながら判断できる状態を作りたいと思っています。
予約のお客様だけ担当して、その後は帰ってよいことにした
お客様の希望と、スタッフさんの安全、その両方を見たうえで、8月13日時点で私が伝えた判断は次のような内容です。
一日中店にいる必要はない
翌日出勤する場合の考え方として、スタッフさんへは次の趣旨を伝えました。
- 翌日の出勤については、台風や緊急時の既存ルールに沿って判断してよい
- 現在入っているお客様を担当したあとは、自分の予約枠を閉じてよい
- 予約枠を閉じたあとは、そのまま上がってもらって大丈夫
お客様への責任は果たしながらも、必要以上に店へ残る必要はないという判断です。天候が悪いなかで、無理に一日中店を開けておくことが目的ではありません。
それでも通常出勤として扱う
もう一つ大事だと思ったのが、勤怠上の扱いです。予約対応を終えて早めに帰った場合でも、通常出勤として扱う方針を伝えました。
「安全のため早く帰ってください」と言われても、給与や勤怠で不利になる仕組みだと、スタッフさんは安心して判断できません。ここは今回、店内の運用として明確にしておきたかった部分です。
「安全を優先してください」と言いながら、早く帰れば給与や勤怠で不利になる仕組みでは、安心して判断できません。言葉と制度を同じ方向へそろえることが大切だと思いました。
【自店に置き換えて考える①:緊急時のルール】
- 台風の日の出勤判断は、誰がしていますか?
- 休んだ場合の勤怠や給与の扱いは、明確になっているでしょうか?
- 予約客への連絡担当は、あらかじめ決まっていますか?
- スタッフさん自身が判断できる基準がありますか?
安心して働ける環境は、優しい言葉だけでは作れない
ここで思い出したのが、少し前に自分で整理した「安心して働ける会社」についての話でした。
8月8日に考えた「安心」が実際の場面に出てきた
8月8日に、スタッフさんが安心して長く働ける環境を、いくつかの要素に分けて整理していました。心と体に無理のない働き方、明確なルール、相談できる関係などです。
そのときは頭の中で整理したにすぎませんでした。しかし今回の台風のように、悪天候という具体的な場面が来ると、この「安心」が現場でどう機能するかが試される、という感覚がありました。
「無理しないで」と言うだけでは足りない
例えば「無理しないでください」と伝えたとしても、それだけでは足りない場面があります。休んだ場合の扱い、予約客への対応、勤怠の記録、誰へ報告するのか。こうした具体的なことが分からないままだと、スタッフさんは結局判断に迷ってしまいます。
安心とは、優しい言葉ではなく「どう判断すればよいか分かる状態」でもある。今回はそんなことを、あらためて感じました。
ルールがあるから、本人へ判断を渡せる
ルコールでは、台風などの緊急時について、以前から通常営業と同じように無理に出勤する必要はないという考え方を作ってきました。基本的なルールがあるからこそ、スタッフさん自身も判断しやすくなるのだと思います。
もちろん、これは本人へ責任を押し付けるためのルールではありません。迷った場合は相談してもらえる余白も、あわせて残しておくことが大切だと考えています。
「任せる」と「丸投げ」は違う
ここまで書きながら、頭の中で少しずつ整理されてきたのが、「任せる」と「丸投げ」の違いです。
会社が決めておく部分
会社側があらかじめ決めておくべきことは、次のようなものだと考えています。
- 安全を優先するという基本方針
- 台風・緊急時のルール
- 休んだ場合や早上がりの勤怠上の取り扱い
- お客様対応の基本の考え方
- 迷った場合の相談先
- 最終的に経営者の判断が必要になるケース
本人へ任せる部分
一方で、現場のスタッフさん本人にしか分からないこともあります。自宅周辺の状況、実際の交通手段、安全に出勤できるかどうか、帰宅の見通し、自分自身の体調や家庭の事情。ここは会社側からは正確に見えない部分です。
だから、そこは本人の判断に委ねる。そのうえで、判断結果を尊重するのが、私の役割だと思っています。
判断材料を渡してから任せる
大切なのは、順番だと感じています。「あとは自分で判断してください」と言う前に、判断できるだけの材料を先に渡す。基本ルール、勤怠の扱い、お客様対応の方針、そして相談窓口。これがあって初めて、任せるが成立するのだと思います。
「自分で判断してください」と言う前に、自分で判断できるだけの基準を会社側が用意する必要があると思っています。



ルールを細かく作りすぎると、逆にスタッフさんが自分で考えなくなってしまいませんか?



その可能性もあると思います。
だから私は、すべてのケースを決めるのではなく、何を優先して判断するのかという基準を共有することが大切だと考えています。
今回なら、まず安全。そのうえでお客様への対応を考える、という順番です。
【自店に置き換えて考える②:経営者の伝え方】
- 「大丈夫ですか?」の一言が、実質的な出勤確認になっていないでしょうか?
- 「無理しないで」と言いながら、休みにくい制度のままになっていませんか?
- スタッフさんが断れる選択肢まで、あわせて伝えられているでしょうか?
オーナーがいないと判断できない店から離れたい
今回の一件は、もう一つ大事なテーマにも触れていました。それが「オーナー不在時にどう店が回るか」という話です。
私はその日、店にはいなかった
この日、私は栃木にいました。連休中で、店舗には物理的にいません。それでもお店は動き続けているという状況でした。
普段はあまり意識しませんが、こういう日にこそ「オーナーがいない前提でお店を回す」ということが、実感として立ち上がってきます。
毎回オーナーへ確認する仕組みでは手離れできない
台風、予約変更、早上がり、急なシフト変更。こうした場面が起きるたびに、「高品さん、どうしますか?」となる仕組みでは、私自身がいつまでも店から離れられません。以前、休日にも頭が休まらないと感じたことがありましたが、その一因もここにあった気がします。
もちろん最終判断が必要な場面もあります。ただ、日常のかなりの部分は、基準さえ共有できていれば現場で判断できるはずです。
ルール+裁量+相談
今回の一日を通して、オーナー不在でも店が回るために必要な要素を、自分の中で整理してみました。次の3つがそろっていることが大事だと感じています。
- 会社としてのルール(優先順位・基本方針)
- 本人の裁量(現場でしか分からない部分の判断)
- 困ったときに相談できる状態(電話・チャットなど)
現場から手を離すために必要なのは、私が判断しなくなることではなく、私がいなくても同じ基準で判断できる状態を少しずつ増やすことだと思います。
【自店に置き換えて考える③:オーナー不在時】
- オーナーが休みの日でも、同じ基準で判断できる状態になっていますか?
- すべての判断がオーナー一人へ集中していないでしょうか?
- ルールで決めることと、その場で相談することを、あらかじめ分けられていますか?
未来の自分への経営メモ
最後に、今回の一日を通して感じたことを、未来の自分のためにまとめておきます。
【未来の自分への経営メモ】
- 悪天候では、まず安全を最優先する
- 気遣いの連絡が、出勤の圧になっていないか確認する
- 「無理しないで」の一言だけで終わらせない
- 休む・遅れる・早く帰る場合の勤怠上の扱いを、事前に明確にしておく
- お客様の希望も、まずご本人に確認する
- ただしお客様都合だけで、スタッフさんの出勤を決めない
- 会社が決めることと、本人が判断することを分ける
- 「自己判断」と「丸投げ」を混同しない
- 判断できるだけの基準を、先に渡す
- 困ったときに相談できる余白を残す
- オーナー不在でも、同じ基準で動ける店にする
- ルールは、現場で使われて初めて意味を持つ
- 言葉と制度を、同じ方向へそろえる
安心して働ける会社を作るには、「無理しないでください」という言葉だけでは足りません。安全を優先できるルールがあり、その中でスタッフさん自身が判断でき、迷ったときには相談できる。そんな状態を少しずつ作ることが、私が目指したい働き方です。



緊急時までスタッフさん自身に判断してもらうのは、少し責任を負わせすぎではないでしょうか?



そこは会社側が気をつけなければいけないと思います。
すべてを本人へ任せるのではなく、安全を優先する基準や勤怠、お客様対応など、会社が決めるべきところは先に決めておく。
そのうえで、本人にしか分からない現場の状況を判断してもらう形にしたいと思っています。



「任せる」の前に、判断できる土台を作ることが必要なんですね。
緊急時のルールは、スタッフさんを縛るためではなく、安心して判断するためにあるのかもしれません。
