トラ吉働きやすい会社を作るなら、給与を上げたり、休みを増やしたりすれば良いのでしょうか?
労務制度をきちんと整えれば、それだけでスタッフさんは安心して働けるのでしょうか?



私も最初は、勤務時間や給与、休日など、一つひとつの制度を整えることばかり考えていました。
ただ、その前に「そもそも安心して働ける会社って、どんな会社なんだろう?」と考える必要があることに気づきました。



制度から考えるのではなく、まず目指す状態を言葉にする。
今回は「安心して働ける会社」を5つに分けて考えた一日です。
今、私は2027年1月以降の採用を見据えて、労務環境を作り直しています。8月6日は顧問の松下さんとお散歩コンサルで目的と優先順位を整理し、8月7日は勤務時間や給与、年間人件費を数字で見直しました。ここまでで、頭の中は具体的な制度の話でいっぱいになっていました。
そして8月8日、机の前で制度案を並べていたとき、ふと手が止まりました。この制度は、そもそも何を実現するために作っているんだろう。そう考え直してみると、自分の中で答えが「スタッフさんが安心して長く働ける環境を作るため」でとまっていることに気づきました。
ただ、「安心」という言葉はとても抽象的です。基準が抽象的なままだと、制度の良し悪しをその場の気分で決めてしまいかねません。そこで一日かけて、私が目指す「安心して働ける会社」を5つの状態へ言語化してみることにしました。
労務制度を先に作るのではなく、「自分たちはどんな会社を作りたいのか」を言葉にする。その基準があって初めて、勤務時間や給与、休日などの制度を判断できるのだと思います。
労務制度を考えていたら、「安心」の意味も曖昧だった
8月8日のはじめは、給与項目や勤務時間の案を細かく書き出す作業からスタートしました。ただ、書けば書くほど、判断が難しくなっていく感覚がありました。
制度の話ばかり考えていた
基本給、住宅手当、皆勤手当、賞与、有給の取り方、勤務時間、休日。ノートにはたくさんの項目が並びました。ただ、一つひとつの項目を「入れる/入れない」と考えているうちに、何を基準に判断していたのか自分でも分からなくなっていきました。
気づけば、「よその美容室ではこうしているらしい」「本にはこう書いてあった」という外の情報を基準に、制度を組み立て始めていました。
制度は目的ではなく、目的を実現するための手段
ここで前日までの整理を思い出しました。制度そのものを立派にすることが目的ではなく、スタッフさんが安心して長く働ける会社にすることが本来の目的のはずでした。
目的が抜けたまま制度だけを増やすと、それぞれの項目がバラバラの方向を向いてしまいます。「良さそうな制度を集めた結果、全体としては複雑で使いにくい」ということも起こりかねません。
「安心」の意味は人によって違う
そこで「安心して働ける会社」という言葉に戻ったのですが、正直に言うと、この言葉もまだ抽象的でした。ある人にとっての安心は「収入の高さ」かもしれませんし、別の人にとっては「休みやすさ」や「人間関係」かもしれません。
「安心」という抽象的な言葉のままでは、どの制度が必要なのかを判断できないことに気づきました。
私が考えた「安心して働ける会社」の5つ
そこで、自分自身が「安心して働ける会社とはこういう状態」と思える要素を、一度全部書き出してみました。似ているものをまとめていったところ、最終的に5つに整理できました。
【私が考えた「安心して働ける会社」の5つ】
- 安定した収入を得られること
- 心と体に無理なく働き続けられること
- 法律や社会保険、ルールが整っていること
- 会社が利益を残し、長く存続できること
- お互いを尊重し、安心して相談できること
この5つを並べたとき、自分でも意外だったのは4つ目に「会社が利益を残せること」を入れたことです。少し前までは、スタッフさんの安心と会社の利益は別々のものだと考えていました。ここからは、5つを一つずつ掘り下げていきます。
安心① 安定した収入を得られること
まず一つ目は、収入の安定です。当たり前のようですが、ここが崩れると他の安心もほとんど成立しません。
金額だけでなく、給与の決まり方が分かること
安心につながる収入は、単純に「金額が高い」ということだけではないと考えています。毎月の収入がある程度見通せること、給与がどう決まっているのかを本人が理解できることも、同じくらい大事だと感じています。
もう一つ大切にしたいのは、経営者の気分で給与が変わらないことです。基準が曖昧だと、スタッフさんは「今月は良かったが来月はどうなるか分からない」と、無意識に不安を抱えることになります。
将来の収入アップをイメージできること
今の給与だけでなく、「これからどうすれば収入が増えていくのか」がイメージできることも、安心の一部だと思います。何年勤めても給与の上がり方がまったく想像できないと、将来設計が立てられません。
ここは、会社が利益を残し続けられることとセットで考える必要があります。スタッフさんへの還元と、会社に利益を残すことは、どちらか一方を選ぶ話ではないのだと思います。
安心② 心と体に無理なく働き続けられること
美容師さんの仕事は、立ち仕事で、体への負担が大きい仕事です。収入があっても、体を壊してしまえば長く続けられません。ここも「安心」に欠かせない要素だと考えました。
休日の多さだけでなく「休みやすさ」まで考える
単純に休日数を増やせば良い、という話ではないと思っています。休日の日数はもちろん、有給の取りやすさ、シフトを変更したいときに相談できる雰囲気があるか、そこまで含めて「無理なく働ける状態」だと考えています。
体調が悪いとき、家族に用事があるとき、それを言い出しにくい職場では、休みの数字だけあっても安心にはつながりません。
長時間働くより、営業時間内の生産性を高める
もう一つ気をつけたいのは、長時間労働を当たり前にしないことです。長時間働けば売上が伸びる、という考え方に頼り続けると、体力勝負の会社になってしまいます。
予約が少ない時間の使い方や、営業時間内の生産性をどう高めるか。ここは、勤務時間そのものより先に見直すべきだと感じています。
【自店に置き換えて考える①:あなたのお店の「安心」を考えてみる】
- スタッフさんは、自分の給与がどう決まっているか説明できるでしょうか?
- 将来どのくらい収入が増やせるのか、イメージできる仕組みはありますか?
- 休日や有給について、気兼ねなく相談できる雰囲気があるでしょうか?



給与も休日も良くすればするほど、安心して働ける会社になるのでしょうか?



どちらも大切だと思います。
ただ、一つだけを良くしても、会社が続かなかったり、人間関係で相談できなかったりすれば、別の不安が残ります。
だから私は、一つの制度ではなく、5つの安心のバランスを見ることにしました。
安心③ 法律や社会保険、ルールが整っていること
三つ目は、法律や社会保険、就業ルールがきちんと整っていることです。ここが曖昧なままだと、給与や勤務時間の話し合いも土台がぐらつきます。
スタッフさん自身が自分の働き方を理解できる会社へ
私が目指したいのは、経営者だけがルールを知っている会社ではなく、スタッフさん自身も自分の働き方を理解できる会社です。有給が何日あるのか、残業はどう扱われるのか、社会保険はどう天引きされているのか。本人が説明できる状態が、安心の土台になると考えています。
ルールが分かりにくいまま働き続けると、後になって不満やすれ違いが出てきます。制度は、経営者が守るものであると同時に、スタッフさんが自分を守るためのものでもあると思います。
社労士さんへ確認しながら、一つずつ整える
社会保険や就業規則、勤怠管理、有給、残業、給与の細かい扱いなどは、私の判断だけで進めることはしていません。社労士さんへ確認しながら一つずつ整えている段階です。
ここは焦って一気に完成させようとせず、専門家と一緒に「今のお店に合う形」で整えていきたいと思っています。法律の細かい話は、正直、私も勉強しながらの状況です。
安心④ 会社が利益を残し、長く存続できること
今回、自分で書き出していて一番ハッとしたのが、この四つ目でした。「働きやすい環境」を考えると、どうしてもスタッフさんへ与える条件ばかりを考えがちだったからです。
会社の利益もスタッフさんの安心につながる
ただ、冷静に考えてみると、会社が利益を残せなければ、次のようなことが起きてしまいます。
- 給与を払い続けられなくなる
- 社会保険を払い続けられなくなる
- 設備投資ができない
- 新しい採用ができない
- 教育に時間もお金もかけられない
- 将来給与を上げていくこともできない
- 売上が落ちたときに雇用そのものを守れない
つまり、「会社がきちんと利益を残して存続できること」もまた、スタッフさんにとっての安心の一つだと考えるようになりました。
会社の利益は経営者だけのものではなく、スタッフさんが安心して働き続けるための土台でもある。ここに気づけたことが、8月8日の一番大きな変化だったと思います。
給与を払い続けられる会社であること
ここで気をつけたいのは、「利益を増やすためにスタッフさんへの還元を抑える」という話にしないことです。目指しているのは、スタッフさんへ還元しながらも、翌年も再来年も同じ条件を続けられる状態です。
今年だけ無理をして条件を良く見せる制度は、来年の自分の首を絞めることになります。長く払い続けられる金額かどうかを、毎回確認しながら決めていきたいと思っています。
将来さらに還元できる余力を作る
会社に利益が残ることで、将来スタッフさんへの昇給や、新しい設備、教育への投資もできるようになります。利益は、経営者だけのものではなく、次の還元の原資でもあると考えるようになりました。
【自店に置き換えて考える②:会社としての安心を考えてみる】
- 売上が少し落ちても、給与を払い続けられる余力がありますか?
- 社会保険や税金を、毎月きちんと支払える状態でしょうか?
- スタッフさんの給与を今後上げていける利益構造になっているでしょうか?



会社が利益を残すことまで、スタッフさんの「安心」に含めるのは経営者側の都合ではないでしょうか?



私も、最初は会社の利益とスタッフさんへの還元を別々に考えていました。
ただ、会社に利益や現金がなければ、給与を払い続けたり、将来昇給したりすることも難しくなります。
会社が長く続くことも、安心して働ける土台の一つだと考えるようになりました。
安心⑤ お互いを尊重し、安心して相談できること
最後の五つ目は、人間関係の安心です。ここは制度で全部を作ることはできませんが、経営者としての姿勢と、日々の関わり方で少しずつ育てていくものだと考えています。
困ったときに相談できる職場
私が大切にしたいのは、困ったことがあったときに、誰かに相談できる状態です。仕事のこと、体調のこと、家庭のこと、自分が大切にしたいこと。それを言い出しにくい職場では、いつか無理が出てしまいます。
相談を受ける側の私も、「聞くだけで解決しなくてもいい」と自分に許可を出す必要があると感じています。すぐに答えを出そうとするより、まず話を受け止めることを大事にしたいです。
自由だけでなく、仕事としての責任も持つ
ただ、勘違いしたくないのは、「何でも本人の希望を受け入れる職場」を目指しているわけではないということです。会社側もスタッフさんを尊重し、スタッフさん側もお店や一緒に働く人を尊重する。この双方向の姿勢があってこそ、安心して相談できる関係が続くのだと思います。
安心できる職場は、何をしても自由な職場ではなく、困ったときに相談でき、お互いの役割を尊重できる職場だと考えています。
【自店に置き換えて考える③:人間関係の安心を考えてみる】
- スタッフさんは、困ったときにお店の誰かへ相談できているでしょうか?
- 会社側は、スタッフさんの話を最後まで聞けているでしょうか?
- スタッフさんの仕事上の責任は、お互いの中で明確になっているでしょうか?
- 意見が違ったときに、感情ではなく話し合いで整理できているでしょうか?
5つに言語化すると、制度を作る判断基準ができた
5つを書き出してみて感じたのは、これはそのまま制度を判断するためのチェックリストにもなる、ということでした。
制度を作るときに大切なのは、その制度が5つのうちどの安心を良くするのか、そして別の安心を壊していないかを確認することだと思います。
一つのメリットだけで制度を決めない
これまでは、「この手当を入れれば、スタッフさんが喜びそう」というように、一つのメリットだけで制度を判断してしまいがちでした。ただ、その手当が会社の利益や他のスタッフさんとの公平感を大きく崩す場合、別の安心を壊してしまうことになります。
一つを良くするために、別の安心を大きく壊していないか。これを毎回チェックする視点が、5つを言語化したことで生まれました。
5つの安心のどこを良くする制度なのかを確認する
これからは、制度を一つ検討するたびに、「これは5つのうち、どの安心を良くするためのものか」を自分に問いかけたいと思っています。目的がはっきりしていれば、細かい設計もぶれにくくなるはずです。
逆に、どの安心にも当てはまらない制度は、いったん保留にしてもよいと考えています。制度を増やすこと自体が目的にならないように、気をつけたいところです。
未来の自分への経営メモ
最後に、8月8日に整理したことを、未来の自分のためにメモとして残しておきます。
【未来の自分への経営メモ】
- 制度から考え始めない
- 先に、目指す会社の状態を言葉にする
- 「安心」という抽象的な言葉も、具体化してから使う
- 安定した収入(給与の決まり方と将来の見通し)
- 心と体に無理の少ない働き方(休みやすさと生産性)
- 法律や社会保険、明確なルール(スタッフさん自身も理解できる)
- 会社が利益を残し、長く続くこと(還元の原資)
- 相談でき、お互いを尊重できる関係(自由と責任の両方)
- 制度を作るときは、5つのどの安心を良くするのかを確認する
- 一つを良くするために、別の安心を大きく壊していないか確認する
- 最初から完璧にせず、一つずつ整える
労務制度を整える本当の目的は、制度そのものを立派にすることではありません。スタッフさんと会社の両方が無理なく続けられる「安心できる会社」を作ること。その目的を忘れず、一つずつ制度へ落とし込んでいきたいと思います。



5つ全部を一度に整えようとすると、逆に制度が複雑になってしまわないでしょうか?



私も、一度に全部完成させるつもりはありません。
まずは今のお店で、どの「安心」が足りていないのかを確認して、優先順位の高いところから一つずつ整えていきたいと思っています。



制度を増やすことよりも、何のための制度なのかを忘れないことが大切ですね。
5つの安心を基準にしながら、少しずつ働きやすい会社へ近づけていきましょう。
